大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)2571号 判決

原告 トーア商事株式会社

右訴訟代理人弁護士 安田喜八郎

被告 有限会社四日市いせ屋家具

右訴訟代理人弁護士 高橋通夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

〈全部省略〉

理由

一、原告会社が家具の卸売販売を業とするものであること、訴外山田昭男が「いせ屋家具マート」の商号を使用して家具販売業を営んでいたことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、訴外山田昭男経営のいせ屋家具マートは、原告に対し、昭和四二年一月一四日当時(被告会社設立当時)、食卓、茶卓、椅子等の商品代金未払分合計一、三〇四、〇〇〇円の債務があったことを認めることができる。

二、よって、被告会社の責任について判断する。

被告会社が、昭和四二年一月一四日設立登記を経由し、「有限会社四日市いせ屋家具」の商号でいせ屋家具マートと同様家具の販売を業としていることは当事者間に争いがないところであり、この事実と〈証拠〉によれば、いせ屋家具マートは昭和四一年一二月頃倒産してそれ以後は残務整理のほかは一切営業を停止していたこと、被告会社は、いせ屋家具マートの店舗と同一場所において同一営業を開始し、いせ屋家具マートの仕入先、得意先とも取引を続けたこと、被告会社はいせ屋家具マートが使用していて社会保険料を滞納したため公売に付された電話を買受けて利用していること、いせ屋家具マートが使用していた従業員の一部を被告会社が雇用して使用していること訴外山田昭男自身は被告会社に関係していないが、同人の妻訴外山田麗子は被告会社の取締役であり、同人の弟訴外山田俊昭はいせ屋家具マートにおいても、被告会社においても従業員として営業面全般を担当していること、以上の事実を認めることができる。

右事実によれば、被告会社は、その発足に当り、訴外山田昭男経営のいせ屋家具マートの営業を譲り受けたものと推認するのが相当である。

しかしながら、商法第二六条第一項にいう商号の続用とは、営業譲受人が営業譲渡人の商号と全く同一の商号を使用する場合が、主として商号の字句から判断して、営業譲渡人の商号に何んらかの字句を附加し、あるいは譲渡人の商号の字句を一部削除しても、取引の社会通念上従前の商号を継続使用していると認められる場合をいうのであって単に類似の商号を使用するにすぎない場合は含まれないと解されるところ、この基準で判断すると、「いせ屋家具マート」と「有限会社四日市いせ屋家具」との間には商法第二六条第一項にいう商号の続用は認められないといわざるをえない。

原告はこれらの商号の主要部分は「いせ屋家具」であり、この主要部分において一致している限り商号の続用があると主張するが、これは原告独自の見解であり採用できない。〈以下省略〉。

(裁判官 鴨井孝之)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例